医療的ケアが生まれた背景には、医療技術の進展や社会の高齢化、慢性疾患や障害を持つ人々の増加といった複数の要因があります。


これらの要因が複雑に絡み合い、従来の医療システムや介護システムだけでは対応しきれなくなったため、医療的ケアが求められるようになりました。

1. 医療技術の進歩

近代医療技術の進歩により、従来であれば生命を維持できなかった患者が生存できるようになりました。特に、呼吸器管理や経管栄養といった技術は、生命の維持に重要な役割を果たしています。

  • 呼吸器や栄養補給手段の進歩により、重度の障害や慢性疾患を抱える患者でも、生活を続けられるようになりました。
  • 医療施設の収容能力には限界があるため、患者の状態が安定していれば、できるだけ自宅で生活を続けることが推奨されるようになってきました。このため、家族や介護者が医療的ケアを行う必要が増加しました。

2. 高齢化社会と慢性疾患の増加

世界的に高齢化が進み、それに伴って慢性疾患を持つ高齢者の数が増加しています。特に日本のような高齢化率の高い国では、以下のような問題が顕著です。

  • 介護の需要拡大:高齢者の増加に伴い、介護が必要な人々も増加しました。特に、医療的な支援が必要な状態の高齢者が多く、専門の医療職だけでは対応しきれない状況
  • 慢性疾患のケア:慢性閉塞性肺疾患(COPD)や心不全、糖尿病など、長期にわたるケアが必要な病気を抱えた人が増えています。これらの疾患管理は病院外、特に在宅でのケアが必要になる場合が多く、医療的ケアの範囲に含まれるようになりました。

3. 障がい児・障がい者のサポート

医療技術の進歩により、重度の障害を持ちながらも生活できる子どもや大人が増えました。しかし、彼らが病院や施設にずっといるのではなく、できる限り家庭での生活を続けられるようにするために、医療的ケアが提供されるようになりました。

インクルージョンの概念

障害を持つ子どもでも社会に参加し、家庭で暮らすことをサポートするインクルーシブな社会を目指す動きが強まっています。これにより、家族が医療的ケアを学び、日常生活でサポートする体制が進化しました。インクルージョン(包括・共生)の概念は、障害を持つ人も含めてすべての人が平等に社会に参加できることを目指す考え方です。この考え方のもと、障害を持つ子どもたちも、特別支援教育に限定されることなく、地域の学校や社会の中で生活し、学ぶことが奨励されています。また、家庭や地域社会での生活をサポートする体制の整備が進んでいます。

4. 医療費と社会保障の問題

医療費や社会保障費の増大が、医療的ケアの普及に大きく影響しています。高齢者や慢性疾患患者が増える一方で、病院での長期入院はコストが高く、国家や自治体の財政を圧迫する要因となっていました。これにより、医療資源を効率的に利用するために、在宅でのケアを支援するシステムが構築されました。

・在宅医療の推進
医療的ケアを家庭で行うことは、入院費や施設の維持費を削減する手段として推進されてきました。患者が家庭で生活することで、医療施設にかかる負担も軽減されます。
・家族の負担軽減と社会保障のバランス
医療的ケアの普及は、家族が医療の一部を担うことにより社会保障の負担を軽減する一方で、家族へのサポートや教育も重要な要素となりました。

5. 法整備と制度化

日本を含む多くの国では、医療的ケアを行う家族や介護者に対する法的な整備が進められています。これにより、一定の研修を受けた介護者が安全に医療的ケアを行えるような仕組みが確立されています。

  • 日本の介護職員等によるたんの吸引等の実施のための法律(2012年施行)

この法律により、一定の研修を受けた介護職員が、吸引や経管栄養といった医療的ケアを行うことができるようになりました。この法律は、医療従事者のみに頼らず、介護現場でも安全に医療的ケアを提供できる体制を構築するためのものです。

6. 患者のQOL(生活の質)向上

従来の入院や施設での生活に比べ、患者が自宅で医療的ケアを受けながら生活することは、心理的な安心感や家族とのつながりを保つことができます。また、日常生活を送る中で患者自身が自立した生活を目指すことも可能です。

  • 自宅での生活の利点

医療的ケアが家庭で行われることで、患者はよりリラックスした環境で生活でき、家族との交流が深まるため、精神的な安定が得られやすい。医療的ケアは、医療と介護の境界を埋める存在として生まれました。その背景には、医療技術の進歩や社会構造の変化があり、それらに対応するために必要とされるケアが拡大し、今の形に進化してきました。これにより、医療従事者のみならず、家族や介護者も適切な訓練を受けることで、医療的ケアを提供できる体制が整いつつあります。

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